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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)8268号 判決

主文

一  被告ベルギーダイヤモンド株式会社、同小城剛、同平井康雄、同株式会社オフィス・ツーワン、同藤原照久は、各自、別紙の当事者目録記載の番号59の原告に対し、別紙の請求金(損害金)一覧表記載の右原告についての合計欄記載の金員及びこれに対する昭和六〇年一一月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告ベルギーダイヤモンド株式会社、同小城剛、同平井康雄、同藤原照久は、各自、別紙の当事者目録記載の番号37、76、85の各原告に対し、別紙の請求金(損害金)一覧表記載の右各原告についての合計欄記載の金員及び右各金員に対する昭和六〇年一一月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告ベルギーダイヤモンド株式会社、同小城剛、同平井康雄、同株式会社オフィス・ツーワン、同林孝登史、同文一宣は、各自、別紙の当事者目録記載の番号2、5、21、38、40、43、53、68、83の各原告に対し、別紙の請求金(損害金)一覧表記載の右各原告についての合計欄記載の金員〔但し、番号5、40、43の各原告については、()内記載の金員〕及び右各金員に対する昭和六〇年一一月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告ベルギーダイヤモンド株式会社、同小城剛、同平井康雄、同林孝登史、同文一宣は、各自、別紙の当事者目録記載の番号13、24、31、78の各原告に対し、別紙の請求金(損害金)一覧表記載の右各原告についての合計欄記載の金員及び右各金員に対する昭和六〇年一一月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告ベルギーダイヤモンド株式会社、同小城剛、同平井康雄、同株式会社オフィス・ツーワン、同林孝登史、同魚森一三、同文一宣は、各自、別紙の当事者目録記載の番号61、70、72の各原告に対し、別紙の請求金(損害金)一覧表記載の右各原告についての合計欄記載の金員及び右各金員に対する昭和六〇年一一月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

六  被告ベルキーダイヤモンド株式会社、同小城剛、同平井康雄、同株式会社オフィス・ツーワン、同藤原照久、同林孝登史、同文一宣、同魚森一三は、各自、別紙の当事者目録記載の番号3、4、6ないし8、12、14、16ないし20、22、23、25ないし27、29、32ないし35、39、41、42、44、46ないし52、54ないし58、60、62ないし67、71、73、75、77、79ないし81、84、86ないし90、92ないし96の各原告に対し、別紙の請求金(損害金)の一覧表記載の右各原告についての合計欄記載の金員〔但し、番号12、16、18、22、26、51、58、75、86、87の各原告については、()内記載の金員〕及び右各金員に対する昭和六〇年一一月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

七  被告ベルギーダイヤモンド株式会社、同小城剛、同平井康雄、同株式会社オフィス・ツーワン、同藤原照久、同林孝登史、同文一宣は、各自、別紙の当事者目録記載の番号28の原告に対し、別紙の請求金(損害金)一覧表記載の右原告についての合計欄記載の金員〔但し、()内記載の金員〕及びこれに対する昭和六〇年一一月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

八  被告ベルギータイヤモンド株式会社、同小城剛、同平井康雄、同藤原照久、同林孝登史、同文一宣は、各自、別紙の当事者目録記載の番号30、82の各原告に対し、別紙の請求金(損害金)一覧表記載の右各原告についての合計欄記載の金員及び右各金員に対する昭和六〇年一一月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

九  被告ベルギーダイヤモンド株式会社、同小城剛、同平井康雄、同株式会社オフィス・ツーワン、同藤原照久、同林孝登史、同文一宣、同東野日出男、同山村忠司、同和田洋、同伊藤泰房、同石水秀夫、同藤間修、同出月久、同三浦進は、各自、別紙の当事者目録記載の番号1、9ないし11、15、45、69、74、91の各原告に対し、別紙の請求金(損害金)一覧表記載の右各原告についての合計欄記載の金員〔但し、番号9、10、74の各原告については、()記載の金員〕及び右各金員に対する昭和六〇年一一月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

一〇  被告べルギーダイヤモンド株式会社、同小城剛、同平井康雄、同株式会社オフィス・ツーワン、同藤原照久、同林孝登史、同文一宣は、各自、別紙の当事者目録記載の番号36の原告に対し、別紙の請求金(損害金)一覧表記載の右原告についての合計欄記載の金具及びこれに対する昭和六〇年一一月一三曰から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

一一  別紙の当事者目録記載の番号28、30、82の各原告の被告魚森一三に対する各請求、並びに別紙の当事者目録記載の番号36の原告の被告東野日出男、同山村忠司、同和田洋、同伊藤泰房、同石水秀夫、同藤間修、同出月久、同三浦進に対する各請求をいずれも棄却する。

一二  訴訟費用は被告らの負担とする。

一三  この判決は、右一ないし一〇項に限り、これを仮に執行することができる。

理由

第一  請求

一  主文一ないし一〇項と同旨。

二  被告魚森一三は、別紙の当事者目録記載の番号28、30、82の各原告に対し、別紙の請求金(損害金)一覧表記載の右各原告についての合計欄記載の金員〔但し、番号28の原告については、()内記載の金員〕及び右各金員に対する昭和六〇年一一月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告東野日出男、同山村忠司、同和田洋、同伊藤泰房、同石水秀夫、同藤間修、同出月久、同三浦進は、各自、別紙の当事者目録記載の番号36の原告に対し、別紙の請求金(損害金)一覧表記載の右原告についての合計欄記載の金員及びこれに対する昭和六〇年一一月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、原告らが被告ベルギーダイヤモンド株式会社から、別紙の請求金(損害金)一覧表記載のとおり、それぞれ、宝石(ダイヤモンド等)を購入し、後記三4記載のとおりMCCの受講を受けて、右購入代金、受講料、及び印紙代金を支払つたが、右被告会社の右営業は、後記三1ないし3記載のとおり、仕組み自体がマルチ商法、無限連鎖講、ないしこれに類似したものに該当し、その勧誘方法も違法であり、独占禁止法にも違反していて、不法行為を構成するものであるところ、その余の被告らは右不法行為に加担しており、また被告ベルギーダイヤモンド株式会社、同平井康雄、及び同株式会社オフィス・ツーワンを除くその余の被告らは、後記二記載のとおり、被告ベルギーダイヤモンド株式会社の役員であつたものであるから、原告らは、被告らに対し、右不法行為による損害賠償請求権、又は選択的併合として、右役員である被告らに対しては商法二六六条ノ三、二八〇条に基づき、各自、右被告らが右不法行為に加担した期間中の右不法行為により原告らが被つた別紙の請求金(損害金)一覧表記載の各合計欄記載の損害金〔但し、番号5、9、10、12、16、18、22、26、28、40、43、51、58、74、75、86、87の各原告については、()内記載の内金〕及びこれに対する不法行為ののちの昭和六〇年一一月一三日(被告らに対する本訴状送達日の翌日のうちの最も遅い日)から完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める、と言う事案である。

二  争いがない事実等

l 被告ベルギーダイヤモンド株式会社は、昭和五八年二月二八日に設立された宝石類の卸及び小売販売を業とする会社であり、大阪に本店を置き、全国に二〇の営業店舗を擁していた。

〔右の事実は、原告らと被告三浦進を除く被告ら(以下右被告らを一括して、「被告ベルギーダイヤモンド株式会社等一五名」と称することがある。)との間で争いがなく、被告三浦進との間では、《証拠略》により認められる。〕

2 被告小城剛は、昭和五八年五月二日以降被告ベルギーダイヤモンド株式会社の代表取締役の地位にあつたものである。

(右の事実は、原告らと被告ベルギーダイヤモンド株式会社等一五名との間で争いがない。)

3 被告林孝登史、同文一宣は、昭和五八年一一月二四日以降、被告藤原照久は、同五九年四月一日以降、被告東野日出男、同山村忠司、同和田洋、同伊藤泰房、同石水秀夫、同藤間修、同出月久は、同六〇年二月一日以降、それぞれ被告ベルギーダイヤモンド株式会社の取締役の地位にあつたものであり、被告魚森一三は、昭和五九年三月一日から同六〇年一月三一日までの間被告べルギーダイヤモンド株式会社の監査役の地位にあつたものである。

(右の事実は、原告らと被告ベルギーダイヤモンド株式会社等一五名との間で争いがない。)

4 被告三浦進は、昭和六〇年二月一日以降被告ベルキーダイヤモンド株式会社の監査役の地位にあつたものである。

〔右の事実は、《証拠略》により認められる。〕

三  原告らは、次の1ないし4のとおり主張した。

l 被告ベルギーダイヤモンド株式会社は、ダイヤモンド等の宝石を商品として以下の仕組みの営業(以下「本件営業」という。)を行つて来た。

(一)  右被告会社は、その会員を商品の販売者としてではなく、販売媒介者として組織している。右販売媒介組織は、上位ランクからベルギーダイヤモンドマネージャー(以下「BDM」という。)、ベルギーダイヤモンドエージェント(以下「BDA」という。)、オフイシャルメンバー(以下「OM」という。)、ダイヤモンドメンバー(以下「DM」という。)の四ランクに別れ、下位ランクの者は直上ランクの者に属し、BDMを頂点としてピラミッド型の階層をなしている。

(二)(1) DMとなるには、宝石を一つ買い、右被告会社の承認面接を受けて販売媒介委託契約を結び、右被告会社の主催する二日間のマネージメン卜コンサルタントクラス(以下「MCC」という。)と称する洗脳教育を受けなければならない。

(2) DMからOMに昇格するためには、DMを三名以上育成する他、自分とその配下の販売媒介累積額で二一〇万円以上をあげなければならない。

(3) OMからBDAに昇格するためには、OMを三名以上育成する他、自分とその配下の販売媒介累積額で八〇〇万円以上をあげなければならない。

(4) BDAからBDMに昇格するためには、BDAを三名以上育成する他、自分とその配下の販売媒介額が一八〇〇万円以上でなければならない。

(三)  右被告会社の会員の収入方法は、販売媒介手数料、指導育成料、オーバーライドの三種類であり、各地位及びその収入は別表1、2記載のとおりで、DMで一通り、OMで二通り、BDAで六通り、BDMで八通りの方法により得られるものとされている。

(1) 販売媒介手数料率は、自ら顧客と右被告会社の販売媒介を行つた場合に、その累積販売媒介額を基準として支払われる手数料であり、

BDM 四七パーセント

BDA 三七パーセント

OM 二二~三二パーセント

DM 一五~三二パーセン卜

の各料率であるとされている(OMとDMの料率は、右範囲で累積販売額に応じた料率が適用される。)。

(2) 指導育成料は、自己の配下が販売媒介した場合に支払われる手数料であり、右に記載の料率で自分に適用される率と、当該配下に適用される率の料率差を累積販売媒介額に乗じて算出する。

(3) オーバーライドは、BDAとBDMについてのみ支払われる手数料である。BDAについては、自己の配下の者がBDAとなり、当該BDAもしくはその配下が販売媒介した場合に、右BDAを育成したBDAが累積販売媒介額の四パーセントを、またBDAがさらにBDAを育成し(要するに、BDAのいわば孫に相当するBDA)、当該BDAもしくはその配下が販売媒介した時に累積販売媒介額の二パーセントを支払うとするものである。BDMについても、右と同じく、配下がBDMとなり、当該BDMないしはその配下が販売媒介した場合に二パーセント、孫のBDM、又はその配下が販売媒介した場合に一パーセントの報酬が支払われる。

(4) 例えば、最下位のDMが一〇〇万円の宝石の販売媒介をすると、そのDMには二〇万円(手数料率二〇パーセント)、直上のOMには四万円(手数料率二四パーセントの場合。二四―二〇=四)、その上のBDAには一三万円(手数料率三七パーセント、三七―二四=一三)、最上のBDMには一〇万円(手数料率四七パーセント、四七―三七=一〇)、右のBDAを配下とするBDAが存在すれば二万円ないし四万円(BDAのオーバーライド)、右のBDMを配下とするBDMが存在すれば一万円ないし二万円(BDMのオーバーライド)、というように金銭が配当される。

(5) したがつて、自分の配下とされる者が多ければ多い程、上位の者は直接に販売媒介をすることなく収入を得る方法が多くなり、また必然的に収入を得る機会が増すように仕組まれている。

2 ところで、被告ベルギーダイヤモンド株式会社が行つて来た本件営業は、以下の理由により、違法であり、不法行為を構成するものである。

(一)  仕組み自体の違法性

(1) 本件営業は、要するに自己の配下の会員がネズミ算的に増えていくことにより、その配下の者の販売媒介行為により莫大な利益が得られるとするものである。

すなわち、右被告会社の会員の収入方法は前記記載のとおりであるが、まず、販売媒介手数料率はDMからBDAに上昇するにつれ上昇するとされており、また指導育成料及びオーバーライドといつた自分の配下が販売媒介することだけで得られる収入(非稼働利益)の途が設けられているから、上位に行けば行く程収入が増える仕組みとなつている。それ故に、専ら利益を目的として加入した会員としては、単にDMにとどまり販売媒介手数料のみを目的とするよりも、より上位の資格を得て直接の販売媒介手数料率を上昇させ、また、右の非稼働利益をより多く得られるよう自己の配下を獲得すべく奔走することになる。

ところが、一人が他の一人を勧誘し、各自一か月一人宛新規会員を勧誘すると、三二か月後には二の三二乗となり、四二億九四九六万七二九六人となつて、地球上の全人口を超える計算となることは計数上明らかであり、右商法の本質には「会員勧誘の有限性」が存すると言わざるを得ず、このような仕組みは最終的に破綻するものである。

計算上の問題としてのみならず、現実の問題としても販売媒介して会員を加入させることは容易でなく、本件営業の組織原理に疑問を抱く者も多いと考えられるから、これが一定の限度で地域的にも限界点に到達し、新たに会員を勧誘することが、事実上困難となるなど行き詰まることは明らかであるから、本件営業では、この商法を早く始めた一部の者だけが儲かり、最終的には、出資金すら回収できないで損害を被る多数の被害者を必ず生むことになるのであり、これは本件営業の仕組みに内在する必然の結果である。

かかる仕組みにおいては、会員勧誘が不成功に終われば会員の被害は現実化し、成功すればする程最後に泣く者が増え、被害者なしで終わることはない。そして、本件営業においては被害者が加害者となり、人間関係の破壊、経済的破綻などを招来するものである。したがつて、このような仕組みは、それ自体公序良俗に反し、違法なものと言わねばならない。

(2) そして、本件営業はマルチ商法にも該当するものである。

すなわち、マルチ商法とは、マルチレベルマーケティングプランの略称であり、商品の販売組織作りにおいて著しい特徴があり、加入者が次々と他の者を組織に加入勧誘させることによつて組織が増殖してゆき、人の加入勧誘が多額の金銭的利益につながるというものである。

そのため、その加入者は、自己の配下の加入者を増やせば増やすほど高収益が得られるので、不当・誇大宣伝、詐欺的・脅迫的勧誘方法を使つても加入者を獲得するようになる。そのため、マルチ商法は別名「人狩り商法」ともいわれ、また、加入者がネズミ算的に広がつていくという自己増殖的性質を持つところから「ネズミ講式販売方法」とも呼ばれ、その組織がピラミッド状に拡大していくところから「ピラミッド式販売方法」とも称されている。

右マルチ商法は、昭和五〇年頃に大流行し、多数の被害者を生み出したが、同五一年六月四日「訪問販売等に関する法律」(以下「訪問販売法」という。)が制定され、その第三章(連鎖販売取引)で規制され、マルチ商法は終息に向かつた。

しかし、最近再び、マルチ商法は、いろんな商品を使つて横行し始めた。近時のマルチ商法は、人の加入勧誘が多額の金銭的利益につながるという基本的仕組み及び不当・誇大な宣伝と詐欺的・脅迫的な勧誘方法という手段の面において、右法律の規制を免れるべく脱法的方法を採用しているところに特徴がある。

本件営業は正に右行為に該当するものである。

(3) さらに、本件営業において販売される宝石は、単なる道具にすぎず、右営業は、実質上、金銭配当組織性を有し、訪問販売法で規制されている「無限連鎖講」にも該当し、強度の違法性を有するものである。

(二)  勧誘方法の違法性

(1) 被告ベルギーダイヤモンド株式会社は、宝石を購入させてその販売媒介者として組織するために不当・誇大な宣伝を行い、かつ、極めて詐欺的・脅迫的な勧誘を行つている。その宣伝・勧誘方法の実態は以下のとおりである。

(2) 右被告会社は、ダイヤを購入させるという真の目的を秘したまま、ただ単に「いい話しがある。」とか「儲かる話しがある。会つてからでないと言えない。」などと顧客を欺いてその興味をそそり、右被告会社の主催する「ビューティフルサークル」と称する会場に連れてくる。

(3) こうして集めてきた顧客に対し、右被告会社は、「ビューティフルサークル」会場において一種の集団催眠をほどこし、健全な理性を麻痺させる。すなわち、会場を極めて豪華に演出し、正装した男女の既会員に新入者を握手攻めにさせ、映画を見せ、数人の成功者の話しなるものを聞かせる。それは、「ベルギーダイヤモンド商法は、すばらしい夢のような商法であること」、「この商法に参加すれば数箇月後には容易に月収数百万円の利益をあげられること」などをくり返すものであり、その都度盛大な拍手を組織し、こうして会場の雰囲気を異常な興奮状態に高め、顧客をしてこの商法に参加すれば誰でも月収数百万円という高収入が容易に得られるかのごとき錯覚をおこさせるものである。

(4) このビューティフルサークルの後には、数人がグループになつて一人の新入者をとりかこみ、預金通帳などを見せて現実に月々数百万円の収入があるかのように説明し、この商法に参加すれば誰でも容易に高収入が得られるかのような説明を繰り返し、本件営業に参加するよう執拗に勧誘する。

そして、この夢のような儲け話に心を動かされた顧客に対し、この商法に参加するためには右被告会社の宝石を一つ買わなければならないこと、しかし、この購入代金は三人子会員を増やすだけで元がとれること、その後は自分の配下の子会員、孫会員、ひ孫会員らの働きにより莫大な利益が得られること、などを説明しながら執拗に購入を勧める。

なかなか決断しない者に対しては、これほどのいい話しを無駄にするのはバカだとか、あるいは自分を信用できないのか、などと半ば脅迫的言辞を弄しながら購入をせまるのである。

(5) こうして右被告会社は、宝石を購入して本件営業に参加すれば、異常な高利益が容易にあげられるかのごとき誇大な宣伝・勧誘を行い、顧客の健全な理性を麻痺させてその旨錯覚させ、あるいは執拗で半ば脅迫的な勧誘を行い、よつて、宝石を購入させ、本件営業に参加させているものである。

(6) したがつて、このような勧誘自体が違法性の極めて強いものである。

(三)  独占禁止法違反

(1) 独占禁止法一九条は、不公正な取引方法を禁止し、その内容を同法二条九項で規定するとともに昭和五七年六月一八日公正取引委員会告示第一五号で「不公正な取引方法」の内容を例示している。

(2) 被告ベルギーダイヤモンド株式会社の前記不当な勧誘方法は、右告示の第八項(欺瞞的顧客誘因)、第九項(不当な利益による顧客誘因)に該当する。

(3) 以上の諸点において、右被告会社の行為は、独占禁止法一九条、二条九項の「不公正な取引方法」に該当する違法なものである。

3(一) 被告ベルギーダイヤモンド株式会社は、前記のとおり違法な本件営業を推進実行して来たものである。

(二)  そして、右被告会社を除くその余の被告らは、次の(1)ないし(11)記載のとおり、本件営業に加担していたものである。

(1) 被告小城剛について

イ 被告小城剛は、昭和五八年二月頃訴外豊田商事株式会社(以下「豊田商事」という。)の子会社社長の紹介により豊田商事グループである大和商事に勤め、同年四月一一日に被告ベルギーダイヤモンド株式会社へ出向し、前記のとおり、同年五月二日より同社の代表取締役として現在に至つているものである。そして、右被告小城は右被告会社の代表者となつてから、右被告会社の本件営業を実施し、推進したものである。

ロ 右被告小城は、右被告会社において最終学歴、最終職歴を詐称するとともに、通産省出身であることを最大限に利用し、ビューティフルサークル等会員をリクルートするにあたつても、代表者が通産省出身であることを特に強調して本件営業があたかも公認されているかのように誤解させ、その違法性を隠蔽するのに大きな役割を果たした。

さらに、右被告自身も、主に右被告会社の外交部門を担当し、各種行事、イベント、パーティーにおいては代表者として会員と接触して会員拡大のために積極的な活動をしており、各官庁関係あるいは消費者センターに出向いては右被告会社の商法が違法でない旨の説明を積極的に行つている。

ハ 被告小城剛は豊田商事の悪徳商法の実態を十分認識しており、右被告会社と豊田商事との関係をも十分知りながら、右被告会社の代表者となつたものである。右被告は、本件営業についてマルチ商法ではないかということにつき自ら大阪通産局に聞きに行つたが、「マルチまがい」という指摘を受けながら、あえてその実行に手を貸したもので、これが違法であることを十分認識していた。

(2) 被告藤原照久について

イ 被告藤原照久は、昭和四八年一〇月頃、ホリデイマジック社の会員となり、マルチ商法に手を染めることとなり、昭和四九年頃、被告平井康雄と知り合い、昭和五八年三月、従前より知り合いであつた右被告会社の常務取締役の鴻農より右被告会社への関与を誘われることとなつた。そして、その後、同年五月には取締役に就任し、一旦、辞任した後、前記のとおり、昭和五九年四月一日に右被告会社の取締役に就任して現在に至つているが、その間一貫して右被告会社の本件営業に関わり、その遂行に当たつての中心人物である。

ロ 被告藤原照久は、当初から、右被告会社が豊田商事の出資のもと宝石の販売を行うことを十分に了知し、更に被告平井康雄とともに従前より自己が関与してきたマルチ商法のシステムを利用して、その後の同社の活動の原動力を生み出したものである。昭和五八年四月には基本方針を定め、そのプログラムを作成して豊田商事の永野一男会長より了解を得た後、活動を開始し、その後、トレーナーのトレーニングを担当したり、ビューティフルサークルのマニュアル作成に関与するとともに、以後、常務取締役営業本部長として、右被告会社の営業活動を統括してきている。

(3) 被告林孝登史について

イ 被告林孝登史は、昭和五七年四月、豊田商事の前身である大阪豊田商事株式会社に入社して、しばらく同社の違法な商法に関与した後、昭和五八年九月より被告ベルキーダイヤモンド株式会社に勤務し、前記のとおり昭和五八年一一月二四日にその取締役に就任し、現在に至つている。

右被告会社においては、総務課長、総務部次長、昭和五八年一一月に取締役となり、同六〇年四月からは総務本部副部長に就任している。

ロ 右被告は、総務部業務課においては会員管理を主に行い、コミッションの支払、売上等の把握を、更にその後は総務全般担当の中心的存在として商品の仕入、在庫管理、人事等を担当していた。

ハ 一方、右被告は、商品の仕入、管理については自己の責任の下に一切を取り仕切つており、また、被告小城剛とともに消費者センター等には再三に亙つて出向き、購入者よりの苦情対策にも奔走し、右被告会社の商法が違法であることを熟知していたものである。

(4) 被告文一宣について

イ 被告文一宣は、昭和五七年一月頃、豊田商事に入社し、人事関係の業務を担当した後、昭和五八年一一月頃、被告ベルギーダイヤモンド株式会社へ出向して、総務部長となり、前記のとおり同年同月二四日に取締役に就任して、一貫して経理並びに総務部門の総括責任者として、社員の採用人事異動の指揮、出店計画、更には支払等経理一般の業務を担当してきた。

ロ 右被告は、被告ベルギーダイヤモンド株式会社と豊田商事との関係を十分認識していた一人であり、右被告会社の本件営業を十分理解した上で、総務部門の責任者として主として人事等組織づくりを担当しており、昭和六〇年一月には銀河計画教育システムに転出している。したがつて、右被告は、いわゆる豊田グループの商法を十分了知し、その組織の要にあつて、右被告会社を含めて次々設立される新しい会社の組織づくりに加担してきたものである。

(5) 被告東野日出男について

被告東野日出男は、従前より豊田商事において勤務し、同社の常務取締役を経て、昭和六〇年一月北本準次郎が銀河計画の代表者として退任した後任として、前記のとおり同年二月一日に被告ベルギーダイヤモンド株式会社の取締役に就任して、総務本部長として、その後、右被告会社の総務部門の最高責任者として本件営業に加担してきたものである。

(6) 被告山村忠司について

被告山村忠司は、豊田商事あるいは銀河計画においても財務関係の仕事をした後、これから出向して前記のとおり昭和六〇年二月一日に被告ベルギーダイヤモンド株式会社の取締役に就任して、財務部長になり、右被告会社内部の資金関係、対外的資金の流入等をも含めて財務一般を担当してきている。

(7) 被告和田洋について

被告和田洋は、豊田商事より出向して、前記のとおり昭和六〇年二月一日に被告ベルギーダイヤモンド株式会社の取締役に就任して、総務部長になり、総務一般を担当してきている。

(8) 被告伊藤泰房、同石水秀夫、同藤間修及び同出月久について

イ 右被告らは、いずれも、被告ベルギーダイヤモンド株式会社の第一期トレーナーとしてその後、前記のとおり取締役に就任し、右被告会社のリクルートの最前線で会員獲得のために働いてきたものである。

ロ 被告伊藤泰房は、昭和六〇年二月には取締役営業部長として被告藤原照久を補佐し、同じく被告石水秀夫も昭和六〇年二月には営業部長として右被告藤原を補佐し、いずれも同被告の直下にあつて、東と西の地域を二分してそれぞれの地域の責任者の地位にあり、右被告会社の違法な商法に深く関与してきている。

ハ 被告藤間修及び同出月久は、いずれも昭和六〇年二月に右被告会社の役員となつて、右被告伊藤、同石水等の補佐を行つてきたが、右役員就任の前後を通じて、営業本部長、副本部長として右被告会社の本件営業に深く関与していたものである。

(9) 被告三浦進、及び同魚森一三について

イ 被告三浦進は、前記のとおり昭和六〇年二月より、被告ベルギーダイヤモンド株式会社の監査役に、また同六〇年一月よりベルギー貿易株式会社の監査役に就任している。

被告魚森一三は、昭和五九年三月より同じく右被告会社の監査役に就任している。

さらに、被告三浦進は、銀河計画の財務部にも席を置き、豊田商事グループの悪徳商法に深く関与し、右被告会社にも度々出社して、右被告会社の財務一般を十分認識していた。

被告魚森一三も、被告文一宣の友人であり、右被告会社の実態を十分認識し、監査役に就き、辞任するまで右被告会社の財務一般を監査しているものである。

ロ 一般に監査役の職務は、会計の監査にあり、その職務を行なうため、いつでも会計の帳簿及び書類の閲覧等をなし、必要であれば取締役に対し会計に関する報告を求めることができるものである。ところで、右被告会社の商法については、当初から種々の疑問が提起され、豊田商事との密接な関係も、右被告会社関係者間では周知の事実であるから、監査役である右被告三浦、同魚森においては、少なくとも取締役に対し、具体的な事実の報告を求め、その違法行為はチェックするべきであり、また本件においてはそのチェックが十分可能であつた。

さらに、その職務を行なうために特に必要があると調査することができるのであつて(商法二七四条)、調査をなせば、右被告会社の違法な商法あるいは異常な財政状況が明確になつたはずである。

ハ それにもかかわらず、右被告三浦、同魚森は監査役としての任務を放棄して、取締役らとともに右被告会社の前記悪徳商法に加担したか、仮にそうでないとしても、取締役らの違法な行為をチェックせず、監査役としての職務権限を事実上放棄して、違法行為を黙認していたものであり、結果的には、取締役らの違法行為を阻止し得ないどころか、むしろ助長していたとも言えるのであり、故意、又は少なくとも重大な過失が認められるものである。

(10) 被告平井康雄について

イ 被告平井康雄は昭和四五年にアメリカに留学し、化粧品・健康食品の訪問販売のセールス・訪問販売のセールスマンを教育する教育会社で指導員をするなどしたのち、帰国し、昭和四八年六月に、化粧品販売のマルチ商法を展開したホリディマジック社に入社し、同社の副社長秘書、また同社のセールスコンサルタントとして勤務するなどし、いわゆるマルチ商法を熟知することとなつた。

右被告平井は、昭和五〇年にホリディマジック社を退社して以後も、同年四月からセールスマン養成のコンサルタント業を名古屋で開業し、また磁気マット・布団・ステンレス鍋などのマルチ商法を展開していたABM社のコンサルタントや自ら特約店となり、一貫してマルチ商法に関与していた。

ロ 右被告平井は、昭和五八年二月頃前記のホリディマジック社で知合であつた被告藤原照久から、被告ベルギーダイヤモンド株式会社の常務取締役の鴻農を紹介され、右訴外人から宝石のマルチ商法の立案への参加と指導監督の依頼をうけた。その頃右被告平井は、右被告会社に豊田商事から資金が支出されていることを知つた。そして、右被告平井は、熟知しているホリディマジック社、ABM社などのマルチ商法を参考とし、面接承認、ビューティフルサークル、MCC、トレーナー制などを取り入れるなどして、積極的に右被告会社の本件営業を立案した。その後、右被告平井は、豊田商事の永野会長と会談し、右被告会社の本件営業の承認を受け、これを実行に移したのである。

右永野会長の承認を受けた後、右被告平井は、右被告会社の本件ピラミッド組織商法を展開するための具体的な活動として、右被告会社の宝石販売ショップや会員フロアーのレイアウト、初期の販売に携わるトレーナーの基礎訓練などを行つた。

特に、右被告会社の本件ピラミッド組織商法の中心となるトレーナーについては、昭和五八年初め頃に募集し、右被告平井、鴻農、被告藤原照久が面接し、二九名を選抜して、国内研修を実施し、右被告会社の本件ピラミッド組織商法の概説とこの商法への参加の動機付けを行つた。さらに、同年四月二二、三日頃から、二週間にわたり、アメリカのロスアンジェルスまで出かけ、ホリディマジック社の役員をしていたり、ロイコックスの指導を受けるなどして、トレーナー達により本格的な訓練を実施した。

これにより、右被告会社の本件営業は具体的な人材を得ることとなり、以後、右被告会社のピラミッド組織商法を大々的に展開することとなつた。

それ以後、右被告平井は、右被告会社で、ビューティフルサークル、MCCでの講演・トレーナー研修・BDA・BDMのトレーニングの講師などを担当し、右被告会社のピラミッド組織商法を維持し、強化するため諸システムの中枢として活動してきた。

そして、右被告平井は、右被告会社から右につき相当多額のコンサルタント料を受領している。

ハ また、右被告平井は、右被告会社の本件営業につき法規制を僣脱することに腐心していたものである。

ニ 以上のように、右被告平井は、右被告会社の本件営業が違法であることを熟知しながら、右被告会社のピラミッド組織を創設した中心人物であり、また、右被告会社の本件営業を維持、強化させた張本人である。その結果、右被告平井は、本件営業により莫大な利益を得たのである。

(11) 被告株式会社オフィス・ツーワンについて

イ 被告株式会社オフィス・ツーワンは、昭和五九年一月一八日に、資本金一〇〇万円で、経営コンサルタント業、経営販売に関する教育訓練業務、宝石・貴金属の販売業などを目的として設立されている。

ロ ところで、右資本金一〇〇万円は、被告平井康雄が全額出資し、実質的には全株を右被告平井が所有している。したがつて、右被告会社は、右被告平井の一人会社である。

そして、右被告会社は、実体のない会社で、単に被告ベルギーダイヤモンド株式会社からコンサルタント料を受け取るための受け皿にすぎないものである。

したがつて、被告株式会社オフィス・ツーワンは、全く形骸化しており、法人格を悪用したものであり、この法人格は否認されるべきものである。

そうすると、右被告平井の責任は右被告会社の責任であり、右被告会社が損害賠償責任を負うべきである。

ハ さらに、被告株式会社オフィス・ツーワンは、被告ベルギーダイヤモンド株式会社の専務取締役の北本からの要請により、右被告会社の売上げの向上に協力することを目的として設立されたもので、その業務内容は専ら右被告会社でのコンサルタント業務であつた。

被告株式会社オフィス・ツーワンの活動は、被告ベルギーダイヤモンド株式会社でのコンサルタント活動しかなく、しかも、その活動は、右被告会社の本件営業を維持拡大するためのものであつて、その収入は右被告会社からのコンサルタント料のみである。

ニ そうすると、被告株式会社オフィス・ツーワンは、被告ベルギーダイヤモンド株式会社と密接不離の関係にあつて、右被告会社の本件営業を推進して来たものである。

(三)  以上の次第であるから、被告らは、民法七〇九条、又は被告小城剛、同藤原照久、同林孝登史、同文一宣、同東野日出男、同山村忠司、同和田洋、同伊藤泰房、同石水秀夫、同藤間修、同出月久は、商法二六六条ノ三、被告三浦進、同魚森一三は、同法二八〇条、二六六条ノ三に基づき、右被告らが関与した期間中の各不法行為により原告らが被つた損害を賠償すべき責任がある。

4 原告らは、被告らの右行為により次の(一)ないし(三)の損害を被つた。

(一)  原告らは、別紙の請求金(損害金)一覧表記載のとおり、被告ベルギーダイヤモンド株式会社からダイヤモンド等の宝石を購入し、右被告会社開催のMCCの講習を受けて、右被告会社に、右購入代金、受講料、その契約書に貼付する印紙の代金を支払つて、これらの金額相当の損害を被つた。

(二)  原告らは、被告らの前記不法行為により多大の精神的苦痛を受け、これについての慰謝料は各金五万円を下らないものである。

(三)  原告らは、本件訴訟の提起を、弁護士である、原告ら訴訟代理人に委任し、その報酬として各金一〇万円を支払う旨約し、同額の損害を被つた。

四  被告ベルギーダイヤモンド株式会社等一五名は、次の1及び2のとおり主張した。

1(一)  右被告会社が行つた本件営業は、物品の再販売をするものではなく、販売媒介委託の形態をとつているので、訪問販売法(昭和六三年改正前のもの)の連鎖販売取引の規制に該当しなく、合法である。したがつて、原告らが主張するマルチ商法には該当しない。

(二)(1) 右法律が連鎖販売取引について「再販売」を要件にしたのは、在庫の滞留を防止すべく規定されたものであり、在庫の滞留こそがマルチ商法の最も重大な弊害である。しかし、本件営業のような、販売斡旋型においては、そのような経済的被害はない。

(2) 前記訪問販売法においては、「特定負担」の要件が、再販売マルチ商法において、最終的に取り残された末端会員の無価値な在庫としての損失が二万円を超える場合にのみが規制される趣旨で設けられた要件であるところ、右被告会社の本件営業におけるダイヤ購入代金は、その侭価値として末端会員の手に残るので、これをもつて負担とすることはできない。

(3) したがつて、本件営業はマルチ商法に類似したものでもない。

(三)  右被告会社の本件営業は、商品(宝石)取引と合体していて、加入者の支出する金銭が商品の購入代金であり、加入者毎に一定額とは言えないので、金銭配当組織性を有しなく、したがつて、原告ら主張の無限連鎖講に該当しないものである。

(四)  あらゆる商法は市場が飽和すれば破綻するので、破綻が必然であるからと言つて、直ちに違法ではなく、また会員数が激増し、地球上の全人口を超えるような事態を想定することはナンセンスである。さらに勧誘、リクルートの有限性については、抽象的にこれを問題とすべきでなく、これが具体的な程度であつて初めて違法であるが、本件営業においては、右有限性が具体的になつていないものである。

(五)  右被告会社は、会員による違法な勧誘が行われないように注意を払い、会員を指導し、会員に交付する様々な書面にこれを明記している。

(六)  以上の次第で、右被告会社のなした本件営業は違法でなく、不法行為を構成しないものである。

2  被告ベルギーダイヤモンド株式会社等一五名は、いずれも、本件営業が違法である旨の認識(故意)はなく、これにつき過失もないものである。

五  主要な争点

1  前記三1及び2記載の点は認められるか。

2  前記三3記載の点は認められるか。

3  前記三4記載の点は認められるか。

第三  主要な争点に対する判断

一  主要な争点1について

1(一)  《証拠略》によれば、被告ベルギーダイヤモンド株式会社が行つた本件営業は、前記第二、三1記載の仕組みを有していたこと、これによれば、右被告会社は、会員を商品の販売媒介者として組織しており、その組織は別表1記載のとおりの四ランクに分けられ、下位のランクの者は直上ランクの者に属し、BDMを頂点としてピラミッド型の階層をなし、別表2記載のとおり、右会員は、販売媒介手数料、指導育成料、オーバーライドの収入を得るよう定められていること、そのため、自分の配下とされる者が多い程、上位の者は直接に販売媒介をすることなく収入を得る方法や機会が多くなるように仕組まれていること、右被告会社は、右営業を実施すべく定型的、組織的な勧誘システムを作つて、これに基づき右営業を遂行して来たことが認められる。

(二)  ところで、《証拠略》によれば、本件のような、ピラミッド組織の根本的な組織原理は、何らかの出捐をして当該システムに所属することによつて、第三者を当該システムに勧誘、リクルートする対価として経済的利益を受ける権利を得、勧誘、リクルートされた者も出捐により同様の権利を得ることにより連鎖化する、その結果、すべての加入者が自己の出捐以上の経済的利益を収受できるためには、このような勧誘、リクルートが文字どおり無限に持続、拡大されなければならず、この勧誘、リクルートの無限の持続、拡大がそのシステム存立の根本条件をなし、その組織原理となつていること、しかし、右組織原理の故に、破綻の必然性を自己に内在させており、右破綻の結果、先に加入したごく少数の者だけが巨額の利益を得て、末端の圧倒的多数の者が被害者となり、また何時破綻するかによつて、自己の出捐を回収できる者とできない者とが運命的に分かれることになつて、非常に射倖性、賭博性を持つた組織であり、このような組織の開設、運営を認めると、必ずや詐欺的、欺瞞的な勧誘がなされるものであることが認められる。

(三)  そして、さらに《証拠略》によれば、右被告会社が本件営業において販売する宝石については、ダイヤモンドはその販売した宝石の約一割程度に過ぎず、それも〇・〇二カラット前後の物が殆どで、通常独立した石として指輪に加工されるような物ではなく、ダイヤモンド以外の宝石は、ファッションリングと呼ばれる、色石のごく微細なものが嵌め込まれた指輪であるが、このような極小の色石には宝石としての価値は殆どなく、業者間で取引される場合は台となつた金属の重さで価値が決められるものであること、通常ダイヤモンドを資産として購入するのは、一カラット以上の物であり、前記〇・〇二カラット前後の物ではないこと、右被告会社からの宝石の購入者は宝石を購入できるような階層の人ではなく、原告らの中にも男性が多く、女性であつてもダイヤモンドの裸石を購入した侭放置している者が殆どで、加工して身に付けている者は全くなく、またファッションリングを購入した者も身に付けて楽しんでいる者は皆無であること、ダイヤモンドの価格は、全く実態のないもので、資産価値は疑わしく、右宝石が一旦ショールームを出てしまうとその価値は著しく低下してしまい、その売値は一〇分の一にも満たないのが日本の現実であること、右被告会社では、ダイヤモンド販売の専門家又は経験者はおらず、それについて素人の被告林孝登史が右宝石の価格を決めており、右被告会社の中枢部にはマルチ商法の専門家が占めていたことが認められ、これによれば、本件営業において販売された宝石は前記ピラミッド組織営業の単なる道具ないし手段に過ぎないことが推認できる。

2  右認定事実より考察すると、本件営業は、右営業がなされた当時施行されていた訪問販売法(昭和六三年改正前のもの)で規制されていた連鎖取引販売(マルチ商法)に類似した内容を有して、マルチ商法まがいの、著しく不健全な取引であつて、公序良俗に反し、違法なものであると認めるを相当とする。

3  本件営業は、物品の再販売をするものではなく、販売媒介委託をするものであるから、右法律(前記改正前のもの)に規制されている連鎖販売取引(マルチ商法)に直ちに該当しないが、右法律において再販売の要件が規定されたのは、単に右立法当時蔓延していたマルチ商法がたまたま再販売を要件としていたからに過ぎず、右要件はマルチ商法の違法性を判断するに当たつて本質的なものではなく(このことは、その後昭和六三年に受託販売、販売のあつせんも規制するよう、右法律の改正がなされたことからも充分首肯できるところである。)、しかも、前記認定の事実によれば、本件営業はこの要件を回避ないし僣脱するために巧みに仕組まれたものであることが推認できる。そうすると、本件営業が右法律所定の右要件を具備していないことだけをもつて違法でないと結論付けることはできない。

被告ベルギーダイヤモンド株式会社等一五名は、マルチ商法では在庫の滞留が重大な弊害であるため規制されている旨主張するが、右商法の違法の本質は、単に、在庫の滞留のみに止まらず、組織への加入が何らかの出捐をする限り、必ず被害の生ずることがあることを考慮したものと考えられる。

右被告らは、本件営業においてはダイヤモンド購入代金はその侭価値として末端会員の手に残るので、これを負担とするとはできない旨主張するが、前記認定事実によれば、前記組織への加入者がダイヤモンドを欲しくて購入するわけではなく、またこれを転売して出捐額を回収できるものでもないので、右出捐は負担であると言うべきである。

右被告らは、本件営業において破綻が必然的であるからと言つて直ちに違法ではなく、また右破綻は具体化していないので、違法とすべきでない旨主張するが、本件営業の現実の破綻を問題としているのではなく、その組織原理があり得ない誰もが儲かることを前提とした欺瞞性を有することをもつて違法であると考えるものであるから、右被告らの右主張は是認できない。

右被告らは、右被告会社は会員による違法勧誘が行われないよう会員を指導して来た旨主張するが、仮に右事実が認められるとしても、前記認定事実によれば、右被告会社は、極めて欺瞞性を有する本件営業を考案して、これを実施すべく定型的、組織的な勧誘システムを作り上げて、これに基づき右営業を遂行して来たものであるから、右指導はいわば、二枚舌の類のものであると評することができ、本件営業に関して責任を追求された際の逃げ口上ないし隠れ蓑に過ぎないことが窺えないでもなく、右指導があることだけをもつて、右営業に違法性がなく、又はこれが失われるものであると判断することはできない。

そうすると、右被告らの前記2の認定に対する反論主張はいずれも採用できない。

4  してみれば、その余の点につき検討を加えるまでもなく、被告ベルギーダイヤモンド株式会社が行つた本件営業は不法行為を構成するものと言わねばならない。

二  主要な争点2について

1  右被告会社が行つた本件営業は不法行為を構成するものであるところ、右被告会社は右営業を考案し、これを実施すべく定型的、組織的な勧誘システムを作り上げて、これに基づき右営業を遂行して来たものであることは前記一において認定のとおりであり、これによれば、右行為は右被告会社の代表取締役が遂行したものであり、その際、右営業が違法であることを認識し、又は容易にこれを認識し得たこと(故意又は過失があること)が推認できるから、右被告会社は右不法行為によつて原告らが被つた損害を賠償すべき義務があるものと言わねばならない。

2(一)  《証拠略》によれば、被告ベルギーダイヤモンド株式会社は、多数の顧客から詐欺的商法と言われる手段をもつて金員を獲得するための組織体であつた豊田商事グループの傘下の会社であつて、その人的、基本的に豊田商事グループと密接に関連していたことが認められる。

(二)  《証拠略》によれば、前記第二、三3(二)(1)記載の事実が認められる。

(三)  《証拠略》によれば、前記第二、三3(二)(2)記載の事実が認められる。

(四)  《証拠略》によれば、前記第二、三3(二)(3)記載の事実が認められる。

(五)  《証拠略》によれば、前記第二、三3(二)(4)記載の事実が認められる。

(六)  《証拠略》によれば、前記第二、三3(二)(5)記載の事実が認められる。

(七)  《証拠略》によれば、前記第二、三3(二)(6)記載の事実が認められる。

(八)  《証拠略》によれば、前記第二、三3(二)(7)記載の事実が認められる。

(九)  《証拠略》によれば、前記第二、三3(二)(8)記載の事実が認められる。

(一〇)  《証拠略》によれば、前記第二、三3(二)(9)イ記載の事実が認められる。

(一一)  《証拠略》によれば、前記第二、三3(二)(10)イ及びロ記載の事実が認められる。

(一二)  《証拠略》によれば、前記第二、三3(二)(11)イ及びハ記載の事実が認められる。

3  前記一において認定の事実に右二1及び2において認定の事実を総合すると、被告ベルギーダイヤモンド株式会社は、詐欺的商法を行つていた豊田商事グループの傘下のもとに同グループから役員の派遣や資金の援助を受けて、前記違法な本件営業を、右被告会社、被告平井康雄、及び同株式会社オフィス・ツーワンを除くその余の被告らの役員が一丸となつて組織ぐるみで遂行、加担しているものであり、その際、右被告らは右営業が前記のとおり違法であることを認識し、又は容易にこれを認識し得たものであること(故意又は過失があること)が推認でき、さらに、被告平井康雄は、右営業の立案に参加して、その実施につき指導監督を行なつて、右営業の維持拡大を図つて、これに加担しており、また被告株式会社オフィス・ツーワン(その代表取締役は被告平井康雄)は右営業につきコンサルタント業務を担当して、その維持拡大を図つて、これに加担しているものであるから、その際、右被告らは右営業が違法であることを認識し、又は容易にこれを認識し得たこと(故意又は過失があること)が推認できる。

《証拠略》中、右認定に反する部分は、前記一、二1及び2において認定の事実に照らし、信用できない。

4  そうすると、民法七〇九条に基づき、被告らは、その各加担した期間中の右不法行為により原告らが被つた損害を賠償すべき義務があるものと言わねばならない。

三  主要な争点3について

《証拠略》によれば、別紙の請求金(損害金)一覧表記載のとおり、原告らは、被告ベルギーダイヤモンド株式会社から、本件営業の組織に加入するために、ダイヤモンド等の宝石を購入し、右被告会社が開催したMCCの講習を受け、右被告会社に対し右購入代金、受講料、右契約書に貼付した印紙の代金を支払つたことが認められ、《証拠略》によれば、右被告会社の右組織加入への勧誘方法は、会場を豪華に装い、照明を操り、音楽を流し、映画を上映し、その後、成功者による経験を語らせる等して、原告らに必ず儲かると言う誤つた認識を植えつけ、冷静に判断する余地を与えず、右会場での催眠状態を利用して、前記宝石を購入させたものであることが認められ、また、原告らの手元には右購入した宝石が残るものの、前記認定のとおり、その客観的な交換価値があることは認められないので、原告らは右各支払金全額の損害を被つているものと言わねばならない。

2 そして、《証拠略》によれば、原告らは被告らの前記不法行為により多大の精神的苦痛を受けていること、ところで、本件営業は、必然的に、友人、知人、親戚等の自分を信頼している者との人間関係を通じてその組織の拡大を図ることになるものであるから、右拡大の困難さ等の不具合に遭遇して、右の者との間柄がまずくなつたこと等の事態が生じてもいることが認められ、これに、前記認定の諸般の事情を総合勘案すると、原告らの右苦痛に対する慰謝料は各金五万円を下らないものと認めるのが相当である。

3 さらに、《証拠略》によれば、原告らがその主張のとおり本件訴訟の提起を弁護士であるその訴訟代理人に委任して報酬を支払う旨約したことが認められるところ、右約定の報酬金(各金一〇万円)を原告らが被告らの前記不法行為により被つた損害であると認めるのが相当である。

4(一) ところで、別紙の当事者目録記載の番号28、30、82の各原告は、右各原告が被つた別紙の請求金(損害金)一覧表記載の番号28、30、82の各損害に関する各不法行為に被告魚森一三も加担している旨主張し、また別紙の当事者目録記載の番号36の原告は、右原告が被つた別紙の請求金(損害金)一覧表記載の番号36の損害に関する不法行為に被告東野日出男、同山村忠司、同和田洋、同伊藤泰房、同石水秀夫、同藤間修、同出月久、同三浦進も加担している旨主張するが、これらを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、右原告らの右被告らに対する本件各請求はいずれも理由がない。

(二) 原告らの本件各請求中、右(一)記載の分を除く各その余の請求については、前記二、及び三1ないし3において認定の事実によれば、その各損害に関する不法行為にその各請求されている被告らが加担していることが認められるので、右各請求はいずれも理由がある〔なお、別紙の当事者目録記載の番号21の原告については、別紙の請求金(損害金)一覧表記載の番号21の損害金の合計は金四六万四八〇〇円が正しいが、右原告は右合計を金四六万四五〇〇円としてその金額しか請求していないので、その限度で認容せざるを得ない。〕

第四  結論

以上の次第で、前記第三、三4(二)記載の、原告らの被告らに対する各請求をいずれも認容し、前記第三、三4(一)記載の、原告らの被告らに対する各請求をいずれも棄却することとする。

(裁判長裁判官 山崎末記 裁判官 内藤正之 裁判官 黒田 豊)

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